あらゆる人間は必ず、生きてきた過去を背負っている。
それらを自由自在に認知出来るとしたら、あなたならどうするだろうか。
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大学の講義とは往々にして眠気が募るものだ。
彼女もまた、そんな睡眠欲を晴らすべく、一つの行動に出た。
パァン!
後方の列にいた彼女の視点は、前方の列へと移り変わっていた。
そう、他人の体を乗っ取ったのである。
理由を挙げるなら暇潰し、娯楽、パソコンから覗かせていた漫画のタイトルが気になったから… そんな所だ。
漫画のタイトルを確認、流れ込んでくる記憶を一通り眺め尽くし、数分後、彼女は自分の体に舞い戻っていた。
「あんまり味が無かったな」
雑な感想が口から微かに溢れでた。
乗っ取られた側からしたらたまったものではない。
気付けば講義が勝手に進んでおり、その間の記憶が全く無いのだから。
「じゃ、次はアイツかな」
彼女の目が微かに翠緑に光る。
パァン!
他数人程を渡り歩いた後に、講義は終わりを迎えた。
彼女はバスに乗り帰路に着く。ここ最近は特に肌寒い。
防寒具を妥協しないで良かったな、とふと考える程には。
自宅の階段を登り、手を洗い、自室の扉を閉める。
再び、彼女の目が光った。
「さて、第二ラウンド」
彼女の容姿が大きく変わった。部屋の様相も数秒前とは大きく異なる。
帽子を被り、髪型を調整し、彼女は家を出た。
「やっぱ100年後は進んでんね」
自転車、いや自動転車に乗り、彼女はそのまま街へと向かう。
彼女は次世代の器を乗っ取ったのだ。